CTOのポエム新項「徳治主義」

エンジニアである前に人として素晴らしくあれ

わたしは社内のエンジニアメンバーに対して、技術者である前にひとりの人間として素晴らしくあってほしいと切に願っている。社内外問わずたとえスキルが高くても、人を傷つけたり、自己中心であったり、うまくいかないことを他人のせいにしたり、あるいは神経がすり減るようなコミュニケーションを常に要したり、そんな人間と一緒に働きたくないのである。「自分はできているから問題ない」と思うあなたにこそ最後まで読んでほしいのだ。

すでに弊社では『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』を必読書に指定しており、HRTという覚えやすい言葉をわたしは大切にしている。お互いを尊重し、謙虚に学び、共通の目標に向かって手を取り合って進むということだ。

誤解を恐れず言えばまず人間として素晴らしいこと(そこへ向かう意志)が前提であり、技術スキルはその次である。

もちろんこれは弊社の思想だ。企業によっては逆、つまりまず高い技術力が求められ人間性は二の次である場合があるのは重々承知している。そうして事業として、あるいは企業として高い成果を出せているのだから本当にすごいと思う。

わたしがここまで人間性にこだわるのは後述する徳治主義という思想がベースにある。そしてそれが結果的に事業の成功(よいプロダクトづくり、顧客への価値提供)につながると信じている。だからこそ大切にしたい。

世の中にあふれる小手先のテクニック

しかしながら誠に残念なことにネットは小手先のテクニックであふれている。これらは業務遂行の表面、しかも極めて限られた一面にのみフォーカスし、インプレッションを稼ぐことを主な目的としている。例えば以下のような見出しだ。

- デイリースクラムのベストプラクティス10選
- 生産性爆上がりのSlack/Notion有効活用集
- できる人間と思われるためのコミュニケーションテンプレート

これらによって幾ばくかの浅い知識は得られるかもしれないが、あなたの人間性そのものが磨かれることは決して無い。

わたしたちがまず身につけるべきはもっと根源に近い部分であり、例えば先に述べた他者への尊敬、思いやり、謙虚さ、信頼、礼儀といったものだ。これらはテクニックではない。したがって簡単に習得できるものではなく、多様な社会的経験を通じわたしたち自身が自分の頭で考え良い方向へ向かい続ける努力が必要だ。

徳治主義という考え方

この状況を憂いてCTOのポエムv2.0(WIP)では「徳治主義」という項を新たに追加する。これはまさに上で述べたような徳性1を重視して治世を行う思想である2。繰り返しになるが、この原則を取り入れることで「企業や事業の成功」に正しくアプローチできるとわたしは信じている。

開発活動はチームで行うものであり、多くのコミュニケーションを伴う。プロダクトが成長すればするほどステークホルダは多くなり前へ進むための折衝も複雑になっていく。部門内では年代も国籍も様々なメンバーを治める必要があり、部門外では技術的な専門知識のない宇宙人たちと友好的な対話を営む必要がある。

マネージャー(テックリード)にとって、そういった状況で日々うまくバランスを保ちながら前進するのは容易ではない。わたしから見ればスタートアップ界隈はルール化、仕組み化を偏重しすぎだ。マネージャーが直面するハードルの大半は最初から仕組み化などできない。あなたなりの眼鏡、あなたなりの定規で問題をよく観察、分析し乗り越えていかねばならない。だからこそあなた自身で良さ、正しさを追求するのであり徳治主義という姿勢はその大きな手助けになる。

見方を変えると現代でこそ政教分離の原則が存在するが、儒教は元来治世をよりよく行うためのツールという側面も有していた。CTOのポエムとて本質は同じことだ。よりよい経営(マネジメント)を行うためのひとつの道具である。実はCTOのポエムには歴史からの学びがすでに多く取り込まれているが、今回も熟考の末歴史から学び今わたしたちに必要な項を追加することにした。マネージャー以上の者には是非すぐにでも取り入れるべき思想となるし、メンバーのあなたにとっても他人事ではない。すぐには身につかないのだから準備が大切なのだ。

まとめよう。抽象度の高い話になったが大切なのは宗教的な原義ではなくエッセンスである。その意味で極力"わたしなりの"解釈をメインにできるようストーリーを構成した。無論この話はわたし自身にとっても他人事ではない。新しい概念は検証される必要がある。わたしがまず実践し、コミューン開発部門に本当にフィットするのかどうか検証していこうと思う。


  1. 難解な言葉だが開発部門向けに"わたしが"解釈すると「エンジニアである前に人として素晴らしくあれ」「表面のテクニックではなく根源の人間性をまず磨け」ということ
  2. 参考: 【仏教/中国の思想】「仁」と「礼」について - 進研ゼミ高校講座